08 履正社の人 −RISEISHA 100 Stories

半世紀を超える
芸人人生の出発点。

おぼん・こぼんさん

漫才師

1966年 大阪福島商業高校卒業

おぼん:俺たちはコンビを組んで57年になるけど、そもそもは大阪福島商業高校(以下 福商)、今の履正社高校で同級生だったんだよな。

こぼん:僕は小学校の頃から芸人志望でね。中学を卒業したら横山ノックさんに弟子入りするつもりだったんだけど、ノックさんに「高校は行きなさい。卒業してからもう一度おいで」と諭されて。進学なんか頭になかったから、慌てて2次募集をしている高校を探したんだ。それで見つけたのが当時は大阪の十三にあった福商というわけ。

おぼん:俺は公立を受験したんだけど、落とされてさ。それで2次募集をしている高校で、学費が安い学校という条件に合致するのが福商だった。

こぼん:当時の福商の入試はすごかったよね。

おぼん:50メートルを20秒で走れば合格だった……もちろん冗談やで(笑)。

こぼん:進学は考えていなかったけど、いざ入学してみたら面白かった。バンドを組んだり、演劇部を作って文化祭で上演したり。井上君(おぼん)とは別の友だちとのコンビで漫才もやっていたんだよね。

おぼん:俺は野球漬けの毎日だった。野球部の顧問はいたけど、当時はしっかりした指導体制があったわけでもないし、コーチもいないから、学生だけで練習して……。毎日グラウンドを駆け回ってたけど、遊びの延長のようなものだった。弱かったなあ。

こぼん:僕らが初めてコンビを組んだのは、いつだったか覚えてる?

おぼん:2年生のときの修学旅行やろ。

こぼん:そう。先生に旅館で余興をやってくれと頼まれたんだけど、コンビを組んでいた友だちは別の宿舎にいる。それで柔道の授業でふざけて目立ってた井上君に「漫才やろうや」と声を掛けた。

おぼん:オモロイことが好きで、人を笑わせるのも好きだから、「ええやん! やろうや!」って即答したんや。

こぼん:「消防士」というネタ、バカウケだったね。気分良かったなあ。

おぼん・こぼんが履正社生みの親!?

おぼん:漫才は修学旅行の一回きりだと思ってたら、今度は3年生のときに「テレビの演芸番組に一緒に出よう」と誘ってきた。びっくりしたよ。

こぼん:当時はアマチュアが出演する演芸番組が流行ったじゃない。僕もお笑い好きの姉と漫才コンビを組んで出演したことがあったから、テレビ局の人とつながりがあったんだ。

おぼん:オモロそうな話だから、ふたつ返事でOKした。馬場添君(こぼん)はうめだ花月や角座に入り浸ってたし、大阪の演芸界では知られた顔だったんやろ?

こぼん:まあね。大阪市内の学校だから劇場に通いやすかったというのも、福商を選んだ理由だね(笑)。それで出演したのは、毎日放送の『素人名人会』という番組。コンビ名は本名からとった「井上君と馬場添君」で、ネタは修学旅行と同じ「消防士」。

おぼん:これがまたドッカンドッカン、ウケまくって優勝したら、賞金はなんと1万円!当時の大卒初任給が1万ちょっとの時代だから、高校生の俺らにはすごい大金だった。スポンサーの商品も手に持てないほどもらって、「お笑いって儲かるんだ!」と思ったなあ。

こぼん:僕らの活躍を知った、東京のフジテレビからも声が掛かった。『トクホンしろうと寄席』という勝ち抜き形式の番組に出演が決まって、この番組でも優勝した。

おぼん:夜行列車で東京に行ったよな。

こぼん:当時、福商は3000人ぐらい生徒がおったと思うけど、僕らのことを知らない生徒はひとりもいなかったんじゃないかな?

おぼん:スーパースターの俺らには先生方も寛大で、「おまえらは卒業後はプロの芸人になるんだから」といって、出席やテストをかなり大目に見てくれた。おおらかな時代やったなあ。

こぼん:ただ、当時はお笑いをやるといっても、誰か師匠を決めて、弟子入りするのが主流。卒業したら、もう一度ノックさんに弟子入りをお願いして、カバン持ちからやり直さないといけないのか……と思っていた。

おぼん:そしたら高校3年の11月、もうすぐ福商を卒業という時期に、フジテレビのディレクターが、おいしい話を持ちかけてきたんだよな。

こぼん:そうそう。

おぼん:東京の堀越学園が池袋に芸能学校を作る。漫才コースも設置するから、そこの講師にならないかって。

こぼん:「生徒に漫才を教えて欲しい」って、僕らまだ高校も卒業してないのに(笑)。

おぼん:めちゃくちゃだよ! しかも転入できるように手配するから、すぐに上京してくれって。

こぼん:誘ってくれたのはありがたいけど、僕らは福商に愛着がある。卒業まで待ってくださいと丁重にお断りした。

おぼん:テレビでも「50メートル走20秒で合格できる!」と母校の“名門”ぶりを散々ネタにさせてもらってたし、やっぱり福商が俺らの原点だもんな。

こぼん:「おまえらがテレビでウソばかり言うから、校長が怒って校名を履正社に変えたんじゃ!」と、僕らを応援してくれたT先生がのちに教えてくれたよ(笑)。

おぼん:つまり、今の履正社高校があるのは、俺らのおかげってことや(笑)。

こぼん:しかし、僕らが通っていた福商からはずいぶん変わったね。ネタどころか、本当の名門になっちゃったんだから。

おぼん:あの弱かった野球部が、夏の甲子園で優勝するんだからなあ……。長生きはするもんだね(笑)。

 

Profile

おぼん・こぼんさん

Obon Kobon

おぼん(本名・井上博一)=1949年2月、大阪府生まれ。こぼん(本名・馬場添良一)=1948年12月、大阪府生まれ。大阪福島商業高校(現・履正社高校)在学中の1965年に「井上君と馬場添君」を結成。学生漫才師として演芸番組に出演し、若手のホープとして脚光を浴びる。卒業後に上京し、プロデビュー。コンビ名も「おぼん・こぼん」に。80年、日本テレビ『お笑いスター誕生‼』で10週勝ち抜きグランプリ。“唄って踊れる漫才師”として確固たる地位を築く。近年、『水曜日のダウンタウン』の出演で再ブレイクした